片平地区・星陵地区の方へ 青葉山地区の方へ

極低温研究の歴史

 片平地区における低温研究の歴史をまとめた記事が日本伝熱学会の学会誌「伝熱」Vol.61, No.255(2022年4月号)に掲載されました。日本伝熱学会様のご厚意により本センターのウェブページに再掲させていただきます(2022年10月)。

野島勉「人と熱との関わりの足跡(その9)-東北大学片平地区における極低温の研究-」(PDF:8.19MB)


ヘリウム液化機(低温科学部)の歴史

 日本で最初にヘリウム液化機が金属材料研究所低温室(極低温科学センターの前身)に導入されたのは昭和27年(1952年)であり、オランダ・ライデン大学のカマリン・オネスが世界ではじめてヘリウムの液化に成功した1908年から44年後のことになります。 現在、本センターで働いている液化機は初代から数えて5代目となります。
 ここでは、初期の液化機の頃から運転に携わってきた、大友貞雄技官(平成12年度退官)が、「東北大学極低温科学センターだよりNo. 2(2001年)」に執筆した 「ヘリウム液化機の変遷とともに」の内容をもとに、最近の情報も加えて、東北大学における液化機の歴史を紹介をさせていただきます。


ADL社のコリンズ型液化機
(1952年~1970年)

 日本の極低温研究の扉を開き、それ以降の東北大学における低温研究分野の伝統と基礎を築いていくスタートとなったADL社のコリンズ型液化機を昭和45年まで稼動させて、東北大学の各部局に液体ヘリウムを供給していた。 当時の液化量は4 リットル/h程度であったが、その後コンプレッサーを増設して8 リットル/hの液化量までアップさせた。しかし液化運転が密になるといろいろとトラブルが生じた。今原因を推測すれば、回収ヘリウムガスの純度(?)が大きな割合を占めていると想像される。重故障のトラブルの結果、液化機を停止せざるを得ない破目になり、液体ヘリウムを希望しているユーザーに供給不能という事態になった。これは彼らにとって突然実験中止の一大パニックの状態であったように思う。

(総供給量21,300 リットル・年平均800 リットル)


日本酸素社製液化機
(1971年~1992年)

 その後、毎年毎年確実に使用量が増えていく低温研究者への液体ヘリウムの供給不足と利用するユーザーの増加に対応するため、昭和46年共同利用施設として低温センターが設置された。当時国産大型液化機として注目された日本酸素KK製のレシプロ形膨張エンジン型の60 リットル/h ヘリウム液化機、精製器、回収設備が主要機器として設置され、東北大学の理学部、工学部、通研にもサブセンターができ、全学規模でヘリウム実験が可能になった。昭和46年から平成4年まで2代目の液化機は、フル稼動の状態であった。

(総供給量1,132,600 リットル・年平均38,000リットル)


リンデ社製液化機 TCF50型
(1993年〜2009年)

 当時、20年以上にわたる酷使により、液化システム機器全般の老朽化が顕著になって、次第に増加する液体ヘリウムの需要に応じきれない状態になってきていた。その打開策として、その数年前より大型液化機への更新を計画していた。事務部をはじめ関係各位のご尽力により液化システムの設置が実現する運びとなり、 平成5年に動圧ガスベアリング方式のヘリウム膨張タービンを採用しているリンデ社のTCF50ヘリウム液化機が導入された。液化能力量は前液化機の2.5倍のとなる 150リットル/hであった。その後の学内需要の更なる上昇のため、平成16年頃からフル稼働の状態になった。特に13年目の平成18年頃から電子部品やバルブ類の故障が頻繁に起こるようになったが、平成21年末まで年間最大15.5万リットルの液体ヘリウムを安定して供給し続けた。

(総供給量1,556,000 リットル・年平均97,000 リットル)


リンデ社製液化機 L280型
(2010年~2021年)

 年々さらに増加の一途をたどる液体ヘリウムの学内需要に対する安定供給体制を維持するため、より省電力・高効率の液化システムが待望されていた。幸いにも平成21度概算要求が認められ、200リットル/hの液化能力を持つL280型液化機を主要設備とする液化システムへと更新することができた(平成22年度より本格運転)。本システムには100L小分け容器へ汲みこみが約5分で行えるヘリウムポンプも付属され、大量供給のネックになっていた汲みこみ時間の短縮も実現できた。しかしながら、L280型の内部精製器は、回収ガス中に含まれる水素の除去能力が低く、平成24年頃より、製造した液体ヘリウム中に固体水素が混入するという問題が発生した。冷却前に高圧ラインをパージする等、運転方法の工夫をしながら液化を継続し、令和2年度に外部水素除去装置を導入した。
 平成30年度頃からバルブやパッキン等の故障が目立ち始めたものの、重大な故障なく運転されたが、最終年度となる令和3年に液化機のタービンが動かなくなるという深刻な故障が生じた。幸いにも東京大学低温科学研究センターの協力によりスペアタービンを借用することができ、更新直前まで供給を継続できた。

(総供給量1,552,699 リットル・年平均133,088 リットル)


リンデ社製液化機 L280型
(2022年~現在)

 年間供給量10-16万リットルという、高い稼働率で運転された前液化機も9年目の平成30年くらいから小さな故障が多発するようになった。学内の関係者の多大な協力のおかげで、予算申請が認められ、230リットル/hの液化能力を持つL280型液化機を主要設備とする液化システムへと更新することができた。液化機は更新前のものと同型名だが液化用タービン型膨張エンジンに改良が加えられ、内部精製器には、以前問題となった水素除去のためのフィルターが追加されている。新しいシステムの特徴として、(1)液化機にイジェクター(EJ)モードとJTモードという2種類の液化運転方式が選べるようになったこと、(2)ヘリウムポンプを用いたヘリウム汲み込みシステムが全自動化されたこと、(3)5000Lの液体ヘリウム貯槽を2台として貯蔵能力が向上したこと、(4)精製モードの改善およびインバータ付き圧縮機採用により液化効率が上がったこと、が挙げられる。
 導入時と時期を同じにして、新型コロナ感染症の世界的流行と世界的なヘリウム調達難が重なり、工事や部品の調達が予定通りに進まず納期内の完成が危ぶまれた。センター技術職員、大学事務、納入業者といった学内外関係者の献身的な努力により遅延なく更新で来たことは幸いであった。完成後小さな初期トラブルはあったものの、令和4年4月より順調に液体ヘリウム供給がなされている。